コバナシ//明快に面白い! シュールはなし! 爆笑・お笑い・ショートショート・ジョーク短編集
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2008/08/22 (Fri) 最後のメッセージ

 息を切らしながら病院の廊下を走って、息子の病室の前まで来た。
 すると息子の妻がちょうど病室から出てきた。
「和子さん、息子は?」
「おかあさま、あの人はさっき亡くなりました」
 病室に入るとベッドに横たわっている息子の顔に、白い布がかけられていた。
 その近くで息子の忘れ形見のツトムが状況を理解出来ない様子で父親の姿を見ていた。
「息子の死に目にあえなんだか……」
 すると孫のツトムが言った。「おばあちゃん、お父さんどうなったの?」
 おばあちゃんは孫を抱きしめた。「お父さんはね、遠いところに行っちゃったのよ」
 和子が言った。「あの人は、死ぬ前に何か言葉を残していったのです」
「言葉? どんな言葉なの?」
「それが、たしか“ゆーういん”って感じの言葉だったと思うのですが」
「“ゆーういん”? どういう意味なの?」
「それが、わたしにもさっぱりで」
 するとツトムが言った。「それ、英語の“YOU WIN”って意味だよ。つまり君が勝者だってことなんだ」
 和子が言った。「この子、さっきからそう言い張って仕方がないのです」
「きっと、突然のことだったから混乱しているのよ」

 ツトムがそう言い張るのにはちゃんと理由があった。
 いまから30分ほど前。

 医者が和子に言った。「残念ですが意識が戻る可能性はありません。生命維持装置で呼吸をしているだけの状態です」
「そんな、どうにかならないのですか!」と、和子は医者に言った。
「全てを尽くしました。このまま生命維持装置で呼吸をさせておくことは出来ますが、旦那さんは死んだも同然なのです。このままの状態を続けることは、費用的な負担がかかるだけです」
「そんな、ではどうしろと!」
「家族の同意が得られれば、生命維持装置を止めることが出来ます」
「そんなこと、急に言われても……」
「当病院ではご家族の意思を迅速に反映するために、このスイッチをお渡しすることにしているのです」
 と、医者はいくつかのボタンのついた小型のコンソールのようなものを渡した。その装置のコードは生命維持装置に繋がっていた。
「これは何です?」と、和子は聞いた。
 医者は言った。「そのボタンは生命維持装置を停止させることが出来るボタンです。あなたの意思で装置を停止させることが出来ます」
「そんな! わたしに夫を殺せというのですか。それにこんなスイッチなんて、間違って押してしまったらどうするのです!」
「その点は心配ありません。そのような誤入力がないように、複雑なボタンの押し方をしないと作動しないように出来ています」
「複雑とはどういうことです?」
「難しいので良く覚えてください。↑↑↓↓←→AABBです」と、言い残して医者は出て行った。
 和子は途方にくれて立ち尽くした。そしてしばらくしてツトムに言った。
「お母さんはおばあちゃんに電話をしてきます。ここでおとなしく待っていて。そしてこの機械には触ってはだめよ」
 そして和子は病室を出て行った。
 カチャカチャカチャカチャカチャカチャ

(了)

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