コバナシ//明快に面白い! シュールはなし! 爆笑・お笑い・ショートショート・ジョーク短編集
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2007/07/13 (Fri) 幸せのブーケトス

ウェディングブーケBOOK (大型本) 売れない貧乏画家のトムは、その日も一枚の絵も売れなくて、そろそろ露天をたたもうとしていた。すると若い女がある絵を食い入るように見ていた。どこかの令嬢といった感じの女だっただった。

その女が見ていたのは、一輪だけ咲く花を描いた、小さな寂しい絵だった。それは気晴らしのために描いたもので、とても売り物になるような絵ではなかった。

「この絵を売って欲しいの」と、女は言った。

「いえ、それは売り物ではないんです」

貧乏画家とはいえプライドはある。売り物に値しないような絵を売るわけにはいかない。

女はそれを聞くとムッとした表情になり、なにを勘違いしたのかバックから札束を取り出し、それを見せて言った。

「これでどうかしら」

それはトムにしてみれば咽から手が出るほど欲しいものだった。しかしその態度がどうも気に入らなかった。思わずトムは言った。

「この絵はコイン一枚の価値もない、しかしその札束よりは価値のあるものなんですよ」

女は一瞬なにを言われたのか理解できない様子だったが、すぐに顔を真っ赤にして立ち去った。

トムは冷静になると、つまらない意地を張って大金を手に入れるチャンスを逃したことを後悔した。

翌日、その日もトムは露天で絵を売っていた。すると昨日来た女がまた現れた。そしてすこし照れくさそうな様子で言った。

「昨日のことを誤りたいの、あなたのプライドを傷つけしまうようなことをして、そんなつもりはなかったのだけど、どうしてもあの絵が欲しかったものだから」

「なぜあんな絵が欲しいのです?」

「わかりません、でもなんだかとても自分をみているようで……」

トムは女に絵を譲った。女はお礼にせめて食事をご馳走したいと言った。断る理由はなかった。それに実際腹ペコだった。

女の名前はナンシー、実業家の娘とのこと。

ナンシーはトムに聞いた。

「あの絵、あなたの部屋にある花の絵なの?」

「いや違うよ、自画像さ」

「そう……」

トムとナンシーはお互いに惹かれあい、数ヵ月後結婚を決めた。

しかしトムは貧乏絵描き、当然のごとくナンシーの両親、特に父親は大反対をした。ナンシーは家を飛び出てトムの部屋に暮らすことになった。

ナンシーはトムの画家としての成功のためにドレスの仕立ての内職をして家計を支えた。

ある日、仕立て屋の、ケビンが仕上がったドレスを受け取るために尋ねてきた。ナンシーは居なかったのでトムが彼女の縫い上げたドレスをケビンに引き渡した。

ケビンはトムを見て言った。

「なんか浮かない顔をしてるな?」

「なに、自分がナンシーにこのドレスの一枚すら買ってやれない男なんだなと思ってね」

「なに言ってるんだ、そんなの覚悟で彼女はあんたに付いて来たんだぜ」

「ああ、しかし結婚式すら挙げられないなんて、不甲斐ないよ」

「……なあ、俺のスーツを見てみな、どこで買ったと思う?」

「ずいぶんいい物じゃないか、高かったろう」

「自分でつくったんだ、古いソファーの布を縫い合わせてね」

「へ~たいしたものだな、そうは見えないよ」

「やろうと思ったらなんだってできんだよ、なあ、あの窓の白いカーテンあるだろう」

「ああ、それがどうかしたかい?」

「あれで俺が、ウエディングドレス作ってやるよ」

「ウエディングドレス?」

「結婚式してやろうぜ、シークレット結婚式をさ、きっとナンシー喜ぶよ」

トムは知っている人間に片っ端からこのシークレット結婚式の計画を話し、出席してくれないかと訪ね歩いた。すると意外なことにほとんどの人が快く了解してくれた。中にはいろいろと支援してくれる人たちもいた。

みんな表には出さなかったが、この若い二人のがんばりをひそかに応援していたのだ。

ケビンは古いカーテンから見事なウエディングドレスを縫い上げた。まったくたいしたものだった。トムはなんでも工夫しだいでなんとでもなるものだと思い知った。そして自分がたくさんの仲間たちによって支えられているということに気づかされた。

そしてある晩、トムはナンシーをとある会場の部屋の前に呼び出した。そしてその部屋に入るように言った。ナンシーがドアを開けて部屋を覗く、しかし中は真っ暗だった。すると突然灯りがついた。そこには立派なウエディングドレスが飾られていた。

「トム、これは!」ナンシーは思わず叫んだ。

「いまからこれを着て結婚式をあげるんだよ」

「ああ、なんてこと、すばらしいわ!」

ナンシーがウエディングドレスを着てトムと共に結婚式会場に入場した。そこには沢山の人達が二人を祝福するために集まっていた。ナンシーの女友達もいた。そして両親もいた。トムが何度も足を運んで説得したのだ。

トムはナンシーに言った。

「ウエディングドレスも、僕のスーツも、壁の装飾も、料理も、何もかもが手作りなんだ」

二人はケビンが扮した神父の前で指輪の交換をした。その指輪は木を彫刻して色を塗ったものだった。

「本物の結婚指輪は用意できなかったんだよ」

トムはそう言ってナンシーの指にその指輪をはめた。

ナンシーはその指の指輪を見ると言った。

「本物よりずっと素敵な指輪だわ」

そしてトムにキスをした。

「そのかわり、あるものを君に渡そうとおもってね」

トムがそう言うと、ケビンが布の掛かったキャンバスを持ってきて、ナンシーの前に置いた。そしてその布を取った。すると会場に感嘆の声が響いた。そこには見事な花束の絵が描かれていた。それは間違いなくトムの最高傑作だった。ナンシーの父親はそれを見て納得したようにうなずいた。

ナンシーのほほには涙が伝っていた。

「すばらしいわトム!」

「ナンシー、僕たちは出会った瞬間、あの絵の一輪挿しじゃなくなったんだよ!」

「ええ、そうね!」

トムはその絵をナンシーに手渡した。

ナンシーは絵を受け取ると言った。

「本物よりずっと素敵なブーケだわ」

そして後ろの女友達に向かって放り投げた。

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