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アスファルトの地面が赤く染まり、女の死体が横たわっていた。
捜査一課の森岡警部は、死体の財布から発見された、免許証を見た。山形幸恵、三十五歳。かつては美しい顔をしていたようだ。
部下の長野刑事が、手帳を見ながら言った。
「十階の自宅のベランダから、落下したものと思われます。関係者の証言で、同じく落下した画家の石川重蔵氏の助手の女、と確認出来ました」
「そうか、で、石川氏の様子は?」
「意識不明の重態、極めて重篤な状態とのことです」
「途中の木に引っかかったとはいえ、あの高さから落下して命があったとはなぁ」
「ええ、しかしもう助からないでしょうね、あんな状態では。あの画家は、最近新聞や週刊誌等で、相当バッシングを受けていましたから、それを苦にしての心中自殺という線が濃厚でしょう」
「天才的な画家だったんだがな……」
「え、警部、ご存知なんですか、あの画家のことを?」
「俺は、こう見えても若いころ、画家になろうとしたことが、あったんだぜ」
「へえ、そりゃ初耳ですね」
「石川画伯といえば、俺がまさに画家を目指していたころ、彗星のように現れた新進気鋭の画家だったんだ。美しい色合いが印象的でね、特に紅色の使い方が良かった。こんな人にはかなわない。と思って俺は、その道を諦めて刑事になったんだ」
「警部にそんな過去があったとは、こりゃ意外だな。でもこの画家の人、実は色盲だったのではないかって、取り沙汰されていますが?」
「色盲で、あんな美しい色彩の絵を、描ける訳ないだろう」
「絵のことはよく知りませんが、何でも女のゴースト画家がいたとかで、この死んだ女がそうだと言われてます」
「あの絵のタッチは、女には出せんよ」
「そんなことが判るのですか?」
「お前もまだまだだなぁ」
「はあ……」
制服警官が敬礼をして、死んだ女のマンションのドアを開けた。
「ご苦労」と、森岡は声をかけて、部屋に入った。
部屋はきれいに整頓されており、几帳面な性格が伺われた。
リビングの中央には、大きめのテーブルがあり、その上には、ノートパソコンが置かれていた。
森岡は、そのノートパソコンに触れようとしたが、すぐに手を引っ込めた。
「こいつは、専門家に任せよう……」
そのままリビングを抜け、奥の部屋のドアを開けた。
その部屋は寝室のようだった。ベッドが置かれており、奥に、比較的大きな机があった。その上には絵の具と筆、そして数冊のスケッチブックが置かれていた。
森岡は、そのスケッチブックのひとつを取って、開いた。
しばらくのあいだ、それに釘付けとなった。
アスファルトの地面が赤く染まり、女の死体が横たわっていた。
捜査一課の森岡警部は、死体の財布から発見された、免許証を見た。山形幸恵、三十五歳。かつては美しい顔をしていたようだ。
部下の長野刑事が、手帳を見ながら言った。
「十階の自宅のベランダから、落下したものと思われます。関係者の証言で、同じく落下した画家の石川重蔵氏の助手の女、と確認出来ました」
「そうか、で、石川氏の様子は?」
「意識不明の重態、極めて重篤な状態とのことです」
「途中の木に引っかかったとはいえ、あの高さから落下して命があったとはなぁ」
「ええ、しかしもう助からないでしょうね、あんな状態では。あの画家は、最近新聞や週刊誌等で、相当バッシングを受けていましたから、それを苦にしての心中自殺という線が濃厚でしょう」
「天才的な画家だったんだがな……」
「え、警部、ご存知なんですか、あの画家のことを?」
「俺は、こう見えても若いころ、画家になろうとしたことが、あったんだぜ」
「へえ、そりゃ初耳ですね」
「石川画伯といえば、俺がまさに画家を目指していたころ、彗星のように現れた新進気鋭の画家だったんだ。美しい色合いが印象的でね、特に紅色の使い方が良かった。こんな人にはかなわない。と思って俺は、その道を諦めて刑事になったんだ」
「警部にそんな過去があったとは、こりゃ意外だな。でもこの画家の人、実は色盲だったのではないかって、取り沙汰されていますが?」
「色盲で、あんな美しい色彩の絵を、描ける訳ないだろう」
「絵のことはよく知りませんが、何でも女のゴースト画家がいたとかで、この死んだ女がそうだと言われてます」
「あの絵のタッチは、女には出せんよ」
「そんなことが判るのですか?」
「お前もまだまだだなぁ」
「はあ……」
制服警官が敬礼をして、死んだ女のマンションのドアを開けた。
「ご苦労」と、森岡は声をかけて、部屋に入った。
部屋はきれいに整頓されており、几帳面な性格が伺われた。
リビングの中央には、大きめのテーブルがあり、その上には、ノートパソコンが置かれていた。
森岡は、そのノートパソコンに触れようとしたが、すぐに手を引っ込めた。
「こいつは、専門家に任せよう……」
そのままリビングを抜け、奥の部屋のドアを開けた。
その部屋は寝室のようだった。ベッドが置かれており、奥に、比較的大きな机があった。その上には絵の具と筆、そして数冊のスケッチブックが置かれていた。
森岡は、そのスケッチブックのひとつを取って、開いた。
しばらくのあいだ、それに釘付けとなった。
スイカを抱えた女が鼻をおさえながらつぶやいた。
「あ〜生まれるかと思った……」
(了)
「あ〜生まれるかと思った……」
(了)
あるガンショップに一人の男がやってきた。
男は店主に「リボルバーと銃弾5発をくれ」と、言った。
店主は言われた通りリボルバーと銃弾5発をカウンターに置いて「500ドルです」と、言った。
すると男はマジックを取り出し、銃弾5発それぞれに1から5までの数字を書いた。
そして男は“2”と書かれた銃弾に“怒り”と書いた。
店主は興味を引かれて訊いた。「怒りって何です?」
男は言った。「別れた女房の浮気相手にくれてやるんだ」
男は続いて“3”と書かれた銃弾に“恨み”と書いた。
店主は訊いた。「恨みって何です?」
男は言った。「別れた女房の弁護士にくれてやるんだ」
男は続いて“4”と書かれた銃弾に“未練”と書いた。
店主は訊いた。「未練って何です?」
男は言った。「別れた女房にくれてやるんだ」
男は続いて“5”と書かれた銃弾に“よくやった”と書いた。
店主は聞いた。「よくやったって何です?」
男は言った。「自分自身にくれてやるんだ」
男は続いて“1”と書かれた銃弾に“500ドル”と書いた。
(了)
男は店主に「リボルバーと銃弾5発をくれ」と、言った。
店主は言われた通りリボルバーと銃弾5発をカウンターに置いて「500ドルです」と、言った。
すると男はマジックを取り出し、銃弾5発それぞれに1から5までの数字を書いた。
そして男は“2”と書かれた銃弾に“怒り”と書いた。
店主は興味を引かれて訊いた。「怒りって何です?」
男は言った。「別れた女房の浮気相手にくれてやるんだ」
男は続いて“3”と書かれた銃弾に“恨み”と書いた。
店主は訊いた。「恨みって何です?」
男は言った。「別れた女房の弁護士にくれてやるんだ」
男は続いて“4”と書かれた銃弾に“未練”と書いた。
店主は訊いた。「未練って何です?」
男は言った。「別れた女房にくれてやるんだ」
男は続いて“5”と書かれた銃弾に“よくやった”と書いた。
店主は聞いた。「よくやったって何です?」
男は言った。「自分自身にくれてやるんだ」
男は続いて“1”と書かれた銃弾に“500ドル”と書いた。
(了)
中の国という国にはとても美しい王女がいました。まだ若いその王女の美しさは隣国にまで伝わっており、憧れの対象でした。
中の国はその周りを二つの国、西の国、東の国によって囲まれていました。
西の国は経済が豊かで国王は大変なお金持でした。
その国の王子は野心家で、ほしいものを手に入れるためには手段を選ばない人物でした。そして彼は中の国の王女に一目ぼれをしていました。
東の国はあまり豊かな国ではありませんでした。しかし誠実な国王のおかげで人々は平和に暮らしていました。
その国の王子は優しい人物でした。しかしそのせいで、かわいそうな人を見つけては、自分の物を与えてしまい、自分はいつまでも貧しいままでした。そしてそんな彼も、中の国の王女に一目ぼれをしていました。
ある日、中の国の王女の誕生日会が大々的に開かれることになり、西の国の王子と東の国の王子も呼ばれました。
その誕生日会で王女が結婚相手を決めるという噂が立っていました。
西の国では王子が号令をかけて、家々から強制的に宝石などが集められました。
東の国では噂を聞いた市民によって、自然となけなしの食べ物やささやかな宝飾品などが集まりませんでした。しかし王子はそれほど豊かでもない人々からそんなものを受け取る訳にはいかないとそれらを受け取りませんでした。
そして中の国の王女の誕生日会の日、西の国の王子は牛車10台に山盛りの宝石を積んで、中の国に向いました。
東の国の王子は、牛舎一台に城中を探してやっとかき集めたいくつかの宝石を乗せて、中の国に向いました。
西の国の王子は道中、漆で作られた立派な箱を見つけました。中を確認した王子はこれは縁起がいいと、牛舎に乗せました。
東の国の王子は道中、ダンボールで作られたみすぼらしい箱を見つけました。中を確認した王子はこれはみすぼらしいと、牛舎に乗せました。
そしてお誕生日会、王女はそれぞれの王子のプレゼントを見ることになりました。
まず王女は西の国の王子のプレゼントを見ました。その山盛りのプレゼントはどれも珍しくて高価なものばかりでした。そして王女は一つの立派な漆塗りの箱に目が行きました。
その箱を開けると王女は「これ欲しいわ!」と、声を上げました。
西の国の王子は言いました。「どうぞ、王女のために持ってきたのです。お受け取りください」
王女は「ありがとう」と言って、西の国の王子いキスをして、その箱を抱えて行きました。
西の国の国王が王子に聞きました。「一体あの箱の中には何が入っていたんだね?」
西の国の王子は答えました。「道中で拾ったのですが、驚いたことに中には5000カラットのダイヤが入っていたのです。こいつは王女も喜ぶと拾ってプレゼントにくわえたのです」
国王は言った。「なるほど、それはツイていたな」
続いて王女は東の国の王子のプレゼントを見ました。そのささやかなプレゼントはどれも並みのもので、どこにでもあるようなものばかりでした。そして王女はひとつのみすぼらしいダンボールの箱に目が行きました。
その箱を開けると王女は「これほしいわ!!」と、歓声を上げました。
東の国の王子は言いました。「それはプレゼントではありません、差し上げる訳にはいかないのです」
王女は「いやよ、これぜったいほしい、ほしい、ほしい!」と、言って泣き出しました。
それでも東の国の王子は。「そんなものを王女にプレゼントしたとあっては私の立つ瀬がありません」と言って、譲りませんでした。
すると王女は「じゃあこうしましょう。結婚しましょう、そうすればあなたのものは私のものになるわ、つまりこれも私にプレゼントしなくても私のものになるのよ!」
東の国の王子は。「そういうことなら……」と、訳もわからず了解しました。
王女は「ありがとう」と、言って漆の箱を放り投げて、ダンボールの箱を抱えて行きました。
東の国の国王は王子聞きました。「一体あの箱の中には何が入っていたんだね?」
東の国の王子は答えました。「それが、私にも訳がわからないのですが。道中で拾ったのですが、中にはみすぼらしい生まれたての子犬が入っていたのです。私はかわいそうになって思わず拾ってしまったのです」
国王は言った。「お前らしいな」
(了)
中の国はその周りを二つの国、西の国、東の国によって囲まれていました。
西の国は経済が豊かで国王は大変なお金持でした。
その国の王子は野心家で、ほしいものを手に入れるためには手段を選ばない人物でした。そして彼は中の国の王女に一目ぼれをしていました。
東の国はあまり豊かな国ではありませんでした。しかし誠実な国王のおかげで人々は平和に暮らしていました。
その国の王子は優しい人物でした。しかしそのせいで、かわいそうな人を見つけては、自分の物を与えてしまい、自分はいつまでも貧しいままでした。そしてそんな彼も、中の国の王女に一目ぼれをしていました。
ある日、中の国の王女の誕生日会が大々的に開かれることになり、西の国の王子と東の国の王子も呼ばれました。
その誕生日会で王女が結婚相手を決めるという噂が立っていました。
西の国では王子が号令をかけて、家々から強制的に宝石などが集められました。
東の国では噂を聞いた市民によって、自然となけなしの食べ物やささやかな宝飾品などが集まりませんでした。しかし王子はそれほど豊かでもない人々からそんなものを受け取る訳にはいかないとそれらを受け取りませんでした。
そして中の国の王女の誕生日会の日、西の国の王子は牛車10台に山盛りの宝石を積んで、中の国に向いました。
東の国の王子は、牛舎一台に城中を探してやっとかき集めたいくつかの宝石を乗せて、中の国に向いました。
西の国の王子は道中、漆で作られた立派な箱を見つけました。中を確認した王子はこれは縁起がいいと、牛舎に乗せました。
東の国の王子は道中、ダンボールで作られたみすぼらしい箱を見つけました。中を確認した王子はこれはみすぼらしいと、牛舎に乗せました。
そしてお誕生日会、王女はそれぞれの王子のプレゼントを見ることになりました。
まず王女は西の国の王子のプレゼントを見ました。その山盛りのプレゼントはどれも珍しくて高価なものばかりでした。そして王女は一つの立派な漆塗りの箱に目が行きました。
その箱を開けると王女は「これ欲しいわ!」と、声を上げました。
西の国の王子は言いました。「どうぞ、王女のために持ってきたのです。お受け取りください」
王女は「ありがとう」と言って、西の国の王子いキスをして、その箱を抱えて行きました。
西の国の国王が王子に聞きました。「一体あの箱の中には何が入っていたんだね?」
西の国の王子は答えました。「道中で拾ったのですが、驚いたことに中には5000カラットのダイヤが入っていたのです。こいつは王女も喜ぶと拾ってプレゼントにくわえたのです」
国王は言った。「なるほど、それはツイていたな」
続いて王女は東の国の王子のプレゼントを見ました。そのささやかなプレゼントはどれも並みのもので、どこにでもあるようなものばかりでした。そして王女はひとつのみすぼらしいダンボールの箱に目が行きました。
その箱を開けると王女は「これほしいわ!!」と、歓声を上げました。
東の国の王子は言いました。「それはプレゼントではありません、差し上げる訳にはいかないのです」
王女は「いやよ、これぜったいほしい、ほしい、ほしい!」と、言って泣き出しました。
それでも東の国の王子は。「そんなものを王女にプレゼントしたとあっては私の立つ瀬がありません」と言って、譲りませんでした。
すると王女は「じゃあこうしましょう。結婚しましょう、そうすればあなたのものは私のものになるわ、つまりこれも私にプレゼントしなくても私のものになるのよ!」
東の国の王子は。「そういうことなら……」と、訳もわからず了解しました。
王女は「ありがとう」と、言って漆の箱を放り投げて、ダンボールの箱を抱えて行きました。
東の国の国王は王子聞きました。「一体あの箱の中には何が入っていたんだね?」
東の国の王子は答えました。「それが、私にも訳がわからないのですが。道中で拾ったのですが、中にはみすぼらしい生まれたての子犬が入っていたのです。私はかわいそうになって思わず拾ってしまったのです」
国王は言った。「お前らしいな」
(了)
私はある時は無敵だった。空を飛び怪獣を倒し、たくさんの人に感謝された。
そしてある時はモテモテだった。たくさんの美女とアバンチュールを楽しんだ。
ただしこれは夢の中でのはなしだ。私は変わった特技としてほぼ理想どおりの夢を見ることが出来たのだ。さらに夢の中でこれが夢であると認識していた。
私は自由に理想の夢をみて楽しんだ。しかし現実に戻ってしまえば当然のことながらそれは全て幻になってしまう。
私は妻に急かされて朝食をとりながら考えていた。現実とは空しいものだ。せめて夢をカメラに録画して夢が覚めた後でも見れるようにならないものだろうか?
「ねえ、さっきから何をボーっと考えてるの?」妻が私を見て言った。
「いや、なに大したことじゃないよ」
「もしかして、浮気をしているとか?」
「ち、ちがうよ!」
「判ってるわよ、あなたにそんな甲斐性があるわけないでしょ」と、妻は笑って言った。
私は少しばかりの抵抗とばかりに拗ねてやった。妻はそんな私には眼もくれずに二人の娘を学校に送り出すためにせわしなく動き回った。
私が会社に行くために玄関に向うと、妻が珍しく「行ってらっしゃいと」言ってキスをした。さっき拗ねたせいだろうか。いや、違った。彼女は私の手にゴミ袋を持たせた。
私はゴミ袋を持っていつもの時間に、いつもの家を出て、いつもの会社に向う。
ある日の夢の中、私は世界最高の科学者になっていた。ノーベル賞を貰った私はある機械を開発することを考えた。
それは見た夢を録画するビデオカメラだ。私は天才的な頭脳でその機械を完成させた。そしてその機械で私は夢の中の私の生活を録画した。
とはいえその機械を開発したのは夢の中だ、現実に持っていけるわけではなかった。私はそう考えていた。しかし事実はそうではなかった。
朝、目を覚ました私の手には一本のビデオテープが握られていたのだ。
私は驚いた。しかしともかくベッドから飛び起きてリビングに向かい、ビデオデッキに差し込んで再生をした。
するとそこには空を飛び、怪獣を倒す私の姿が映っていたのだ。夢の中で開発した夢を記録するビデオカメラを現実の世界へも持ってこれたのだ。
テレビに映る私は世界を救いたくさんの人々に感謝されまさにヒーローだった。
そしてたくさんの美女に囲まれモテモテだった。
そして妻がいて子供がいて、せわしない日常をそれなりに楽しんでいた。
私はビデオを止め、家族の写った写真立てを手に取り、一年前の事故を思い出し涙を流した。
(了)
そしてある時はモテモテだった。たくさんの美女とアバンチュールを楽しんだ。
ただしこれは夢の中でのはなしだ。私は変わった特技としてほぼ理想どおりの夢を見ることが出来たのだ。さらに夢の中でこれが夢であると認識していた。
私は自由に理想の夢をみて楽しんだ。しかし現実に戻ってしまえば当然のことながらそれは全て幻になってしまう。
私は妻に急かされて朝食をとりながら考えていた。現実とは空しいものだ。せめて夢をカメラに録画して夢が覚めた後でも見れるようにならないものだろうか?
「ねえ、さっきから何をボーっと考えてるの?」妻が私を見て言った。
「いや、なに大したことじゃないよ」
「もしかして、浮気をしているとか?」
「ち、ちがうよ!」
「判ってるわよ、あなたにそんな甲斐性があるわけないでしょ」と、妻は笑って言った。
私は少しばかりの抵抗とばかりに拗ねてやった。妻はそんな私には眼もくれずに二人の娘を学校に送り出すためにせわしなく動き回った。
私が会社に行くために玄関に向うと、妻が珍しく「行ってらっしゃいと」言ってキスをした。さっき拗ねたせいだろうか。いや、違った。彼女は私の手にゴミ袋を持たせた。
私はゴミ袋を持っていつもの時間に、いつもの家を出て、いつもの会社に向う。
ある日の夢の中、私は世界最高の科学者になっていた。ノーベル賞を貰った私はある機械を開発することを考えた。
それは見た夢を録画するビデオカメラだ。私は天才的な頭脳でその機械を完成させた。そしてその機械で私は夢の中の私の生活を録画した。
とはいえその機械を開発したのは夢の中だ、現実に持っていけるわけではなかった。私はそう考えていた。しかし事実はそうではなかった。
朝、目を覚ました私の手には一本のビデオテープが握られていたのだ。
私は驚いた。しかしともかくベッドから飛び起きてリビングに向かい、ビデオデッキに差し込んで再生をした。
するとそこには空を飛び、怪獣を倒す私の姿が映っていたのだ。夢の中で開発した夢を記録するビデオカメラを現実の世界へも持ってこれたのだ。
テレビに映る私は世界を救いたくさんの人々に感謝されまさにヒーローだった。
そしてたくさんの美女に囲まれモテモテだった。
そして妻がいて子供がいて、せわしない日常をそれなりに楽しんでいた。
私はビデオを止め、家族の写った写真立てを手に取り、一年前の事故を思い出し涙を流した。
(了)
自動販売機の前で休憩していた少年の持っている缶から突然煙が噴出した。
そしてその煙から男が現れた。
煙から出てきた男は少年に言った。
「私は缶の精です」
「カ、缶の精……?」
「はい。この缶の底を叩いたのはあなたですか?」
少年は腰を抜かしながら「うん」とうなづいた。
「私はこの缶の底を叩いた者をご主人様とすることになっています。私はあなた願いをどんなものでも三つ叶えることができる」
「本当?」
「ご主人様、どうぞ願いをおっしゃってください」
少年はしばらく考えて言った。
「とりあえず缶の底のコーンを何とかしてくれ」
(了)
そしてその煙から男が現れた。
煙から出てきた男は少年に言った。
「私は缶の精です」
「カ、缶の精……?」
「はい。この缶の底を叩いたのはあなたですか?」
少年は腰を抜かしながら「うん」とうなづいた。
「私はこの缶の底を叩いた者をご主人様とすることになっています。私はあなた願いをどんなものでも三つ叶えることができる」
「本当?」
「ご主人様、どうぞ願いをおっしゃってください」
少年はしばらく考えて言った。
「とりあえず缶の底のコーンを何とかしてくれ」
(了)
ある心理治療師の元に、女性が女の子供を連れてやってきた。
女の子の名前はアリサ。アリサは右手に筒のようなものを持っていて。それをずっと右目に当てて覗いていた。
アリサの母親は心理治療師に言った。
「先生、この子はずっとトイレットペーパーの芯を覗いたまま手放そうとしないんです」
心理治療師はアリサに言った。「どうしてティッシュペーパーの芯を覗いているんだい?」
アリサは言った。「これ、トイレットペーパーの芯じゃないわ。万華鏡よ」
「万華鏡か。どうしてそれを万華鏡だと思うんだい?」
「だってこれを覗くととてもキラキラときれいなんですもの」
母親が言った。「ずっとこの調子なのです。この子心がどうかなってしまったのでしょうか……」
「まあ、とにかく治療してみましょう」
心理治療師はアリサを治療室に連れて行き、催眠治療を試みた。
10分後、心理治療師は治療室から出てきた。
アリサの母親は治療師に走り寄り訊いた。
「先生、アリサはどうでしたか、治療は成功しましたか?」
「それが、なんともいえないのです」
「なんともいえない? それってどういうことなのです?」
その時治療室からアリサが出てきた。その手にはトイレットペーパーの芯はもたれていなかった。
母親は驚いてアリサに訊いた。
「ありさ、トイレットペーパーの芯はどうしたの!?」
「だって、あんなものを覗いていたって仕方がないじゃない」
「先生! アリサを直してくださったのですね」
「ええ、まあ……」
するとアリサが言った。「だってあんなものを覗かなくたって、世の中は全部キラキラときれいなんですもの、存在するもの全て、見えるものも見えないものも全て輝いて見えるわ」
「先生! 前より悪化してるじゃありませんか!」
「そうかもしれません。あるいは私たちのほうが病んでいるのかもしれません」
(了)
女の子の名前はアリサ。アリサは右手に筒のようなものを持っていて。それをずっと右目に当てて覗いていた。
アリサの母親は心理治療師に言った。
「先生、この子はずっとトイレットペーパーの芯を覗いたまま手放そうとしないんです」
心理治療師はアリサに言った。「どうしてティッシュペーパーの芯を覗いているんだい?」
アリサは言った。「これ、トイレットペーパーの芯じゃないわ。万華鏡よ」
「万華鏡か。どうしてそれを万華鏡だと思うんだい?」
「だってこれを覗くととてもキラキラときれいなんですもの」
母親が言った。「ずっとこの調子なのです。この子心がどうかなってしまったのでしょうか……」
「まあ、とにかく治療してみましょう」
心理治療師はアリサを治療室に連れて行き、催眠治療を試みた。
10分後、心理治療師は治療室から出てきた。
アリサの母親は治療師に走り寄り訊いた。
「先生、アリサはどうでしたか、治療は成功しましたか?」
「それが、なんともいえないのです」
「なんともいえない? それってどういうことなのです?」
その時治療室からアリサが出てきた。その手にはトイレットペーパーの芯はもたれていなかった。
母親は驚いてアリサに訊いた。
「ありさ、トイレットペーパーの芯はどうしたの!?」
「だって、あんなものを覗いていたって仕方がないじゃない」
「先生! アリサを直してくださったのですね」
「ええ、まあ……」
するとアリサが言った。「だってあんなものを覗かなくたって、世の中は全部キラキラときれいなんですもの、存在するもの全て、見えるものも見えないものも全て輝いて見えるわ」
「先生! 前より悪化してるじゃありませんか!」
「そうかもしれません。あるいは私たちのほうが病んでいるのかもしれません」
(了)
息を切らしながら病院の廊下を走って、息子の病室の前まで来た。
すると息子の妻がちょうど病室から出てきた。
「和子さん、息子は?」
「おかあさま、あの人はさっき亡くなりました」
病室に入るとベッドに横たわっている息子の顔に、白い布がかけられていた。
その近くで息子の忘れ形見のツトムが状況を理解出来ない様子で父親の姿を見ていた。
「息子の死に目にあえなんだか……」
すると孫のツトムが言った。「おばあちゃん、お父さんどうなったの?」
おばあちゃんは孫を抱きしめた。「お父さんはね、遠いところに行っちゃったのよ」
和子が言った。「あの人は、死ぬ前に何か言葉を残していったのです」
「言葉? どんな言葉なの?」
「それが、たしか“ゆーういん”って感じの言葉だったと思うのですが」
「“ゆーういん”? どういう意味なの?」
「それが、わたしにもさっぱりで」
するとツトムが言った。「それ、英語の“YOU WIN”って意味だよ。つまり君が勝者だってことなんだ」
和子が言った。「この子、さっきからそう言い張って仕方がないのです」
「きっと、突然のことだったから混乱しているのよ」
ツトムがそう言い張るのにはちゃんと理由があった。
いまから30分ほど前。
医者が和子に言った。「残念ですが意識が戻る可能性はありません。生命維持装置で呼吸をしているだけの状態です」
「そんな、どうにかならないのですか!」と、和子は医者に言った。
「全てを尽くしました。このまま生命維持装置で呼吸をさせておくことは出来ますが、旦那さんは死んだも同然なのです。このままの状態を続けることは、費用的な負担がかかるだけです」
「そんな、ではどうしろと!」
「家族の同意が得られれば、生命維持装置を止めることが出来ます」
「そんなこと、急に言われても……」
「当病院ではご家族の意思を迅速に反映するために、このスイッチをお渡しすることにしているのです」
と、医者はいくつかのボタンのついた小型のコンソールのようなものを渡した。その装置のコードは生命維持装置に繋がっていた。
「これは何です?」と、和子は聞いた。
医者は言った。「そのボタンは生命維持装置を停止させることが出来るボタンです。あなたの意思で装置を停止させることが出来ます」
「そんな! わたしに夫を殺せというのですか。それにこんなスイッチなんて、間違って押してしまったらどうするのです!」
「その点は心配ありません。そのような誤入力がないように、複雑なボタンの押し方をしないと作動しないように出来ています」
「複雑とはどういうことです?」
「難しいので良く覚えてください。↑↑↓↓←→AABBです」と、言い残して医者は出て行った。
和子は途方にくれて立ち尽くした。そしてしばらくしてツトムに言った。
「お母さんはおばあちゃんに電話をしてきます。ここでおとなしく待っていて。そしてこの機械には触ってはだめよ」
そして和子は病室を出て行った。
カチャカチャカチャカチャカチャカチャ
(了)
すると息子の妻がちょうど病室から出てきた。
「和子さん、息子は?」
「おかあさま、あの人はさっき亡くなりました」
病室に入るとベッドに横たわっている息子の顔に、白い布がかけられていた。
その近くで息子の忘れ形見のツトムが状況を理解出来ない様子で父親の姿を見ていた。
「息子の死に目にあえなんだか……」
すると孫のツトムが言った。「おばあちゃん、お父さんどうなったの?」
おばあちゃんは孫を抱きしめた。「お父さんはね、遠いところに行っちゃったのよ」
和子が言った。「あの人は、死ぬ前に何か言葉を残していったのです」
「言葉? どんな言葉なの?」
「それが、たしか“ゆーういん”って感じの言葉だったと思うのですが」
「“ゆーういん”? どういう意味なの?」
「それが、わたしにもさっぱりで」
するとツトムが言った。「それ、英語の“YOU WIN”って意味だよ。つまり君が勝者だってことなんだ」
和子が言った。「この子、さっきからそう言い張って仕方がないのです」
「きっと、突然のことだったから混乱しているのよ」
ツトムがそう言い張るのにはちゃんと理由があった。
いまから30分ほど前。
医者が和子に言った。「残念ですが意識が戻る可能性はありません。生命維持装置で呼吸をしているだけの状態です」
「そんな、どうにかならないのですか!」と、和子は医者に言った。
「全てを尽くしました。このまま生命維持装置で呼吸をさせておくことは出来ますが、旦那さんは死んだも同然なのです。このままの状態を続けることは、費用的な負担がかかるだけです」
「そんな、ではどうしろと!」
「家族の同意が得られれば、生命維持装置を止めることが出来ます」
「そんなこと、急に言われても……」
「当病院ではご家族の意思を迅速に反映するために、このスイッチをお渡しすることにしているのです」
と、医者はいくつかのボタンのついた小型のコンソールのようなものを渡した。その装置のコードは生命維持装置に繋がっていた。
「これは何です?」と、和子は聞いた。
医者は言った。「そのボタンは生命維持装置を停止させることが出来るボタンです。あなたの意思で装置を停止させることが出来ます」
「そんな! わたしに夫を殺せというのですか。それにこんなスイッチなんて、間違って押してしまったらどうするのです!」
「その点は心配ありません。そのような誤入力がないように、複雑なボタンの押し方をしないと作動しないように出来ています」
「複雑とはどういうことです?」
「難しいので良く覚えてください。↑↑↓↓←→AABBです」と、言い残して医者は出て行った。
和子は途方にくれて立ち尽くした。そしてしばらくしてツトムに言った。
「お母さんはおばあちゃんに電話をしてきます。ここでおとなしく待っていて。そしてこの機械には触ってはだめよ」
そして和子は病室を出て行った。
カチャカチャカチャカチャカチャカチャ
(了)
ツトム君にはお母さんがいなかった。ツトム君のお母さんは一年前に死んでしまったのだ。
ツトム君はとてもさびしかった。お母さんのいる友達がうらやましかった。自分もお母さんがほしかった。
そんな時、神様がツトム君の枕元に訪れていった。
「君の望みを一つだけどんなものでも叶えてやろう」
「本当ですか神様!」
「ああ、言ってみたまえ」
「だったら、お母さん、お母さんが欲しいです!」
「うむ、承知した。では、君がお母さんになって欲しい女性に『おかあさん』と声を掛けるのじゃ。さすればその人物が君の“お母さん”になる。ではさらばだ」
と、言い残して神様は帰っていった。
ツトム君は考えた。『お母さん』と声を掛ければその人が僕のお母さんになるのか。
どうせなら飛びっきりの美人がいいな、芸能人みたいなのがいいな。いや、むしろ芸能人がいい!
しかし声を掛けた人が僕のお母さんになるのだから、直接会う必要があるってことだな。しかし芸能人なんてそんなに簡単に会える訳もないな……。
その時ツトム君はあることを思い出した。
そうだ! 担任の先生が、セクシーアイドルの杉本彩子のお母さんが教え子だったって言ってたな、もしかしたら頼んだら会わせてくれるかも知れない。明日学校で訊いてみよう!
次の日、その担任の先生が教室に入ってきた。
ツトム君はすかさず手を挙げて言った。
「お母さん!」
(了)
私は選択を迫られていた。目の前にいる男は言った。「ここに二つの麦茶のボトルがある。ひとつは青いフタ、もうひとつは赤いフタだ。青は忘却、赤は真実、青い麦茶を飲めば、君は今のままの生活を送ることが出来る。赤いフタの麦茶を飲めば、君は真実を知ることになる。さあどうするかな?」
私は迷った末に赤いフタの麦茶を選んだ。男はその赤いフタをコップ代わりにお茶を注いで私に渡した。
男は言った。「それを飲んだらもう戻ることは出来ないぞ、いいのか?」
私はうなづいてその麦茶を一気に飲み込んだ。
そして私は真実を知った。
「めんつゆだ!」
(了)








